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蔵の菌たちが醤油造りの職人【山本康夫】

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shikoku_map木桶王国小豆島

醤油の産地として有名な香川県小豆島。約400年前から醤油造りが行われ、現在でも22の蔵が醤油造りを続けています。

醤油や味噌、日本酒等、全国で使われている木桶の数は3000~4000と言われており、そのうちの約3割に相当する1000本の桶が、この小豆島で醤油造りに使い続けられています。

ちなみに全国の醤油蔵で木桶の保有数ランキングTOP3が全て小豆島の醤油蔵とのこと。

 

創業150年くらい

その小豆島の中心地。バスでは入れない、小さな路地の奥まった場所に創業150年くらいのヤマロク醤油はあります。なぜ「くらい」なのか、「正確な記録が残ってないのですが、おばあちゃんのおじいちゃんの頃には醤油をつくっていたそうなので、そこからさかのぼってみると、江戸時代の終わり頃~明治の初め頃だと思いますが、これまた記録が無いので正確なことはわかりません。」と語るのは、五代目の山本康夫さん。

 

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圧巻の眺め

醤油蔵に足を踏み入れて、まず驚くのが、所狭しと並べられた大きな杉樽。

この大杉樽、三十二石(約6000リットル)の容量があり、一つ一つが手作りなので大きさが多少違いますが、

直径約2m30cm、高さ約2mとのこと。その大杉樽が40本。
半分から3分の2の大きさの樽が20樽あり、これだけ多くの杉樽が並んでいる姿は、まさに壮観の一言。

 そして次に驚くのが、杉樽がボロボロになるほどびっしりと住み着いた、乳酸菌や酵母菌などの100種類以上の「菌」たちの姿。醤油蔵は何度か拝見したことがありますが、これ程までに菌に包まれている樽はなかなかお目にかかる機会はありません。

樽職人さんの目利きでは、使い始めてから既に150年以上経っているそうで、これだけ長い期間、醤油用に使用されている杉樽はあまり無いとのことです。

 その秘密は、一般的に醤油の杉樽は、清酒作りに使われた後のいわば「中古品」を使用しているため、樽の厚みが薄く、使用年数が限られていますが、ヤマロク醤油の杉樽は一般の杉樽よりもはるかに厚みがあり、菌が住み着くことも考慮した醤油造り専用の新品の杉樽だったため、この150年の年月に耐えられるのだとか。

 

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生きている蔵

目が慣れて辺りを見回してみると、この菌たちが梁や壁にもついていて、ボロボロの状態。

山本さんに「建て替えないのですか?」と聞くと、「見た感じボロボロですが、そこが美味しい醤油を造るのに重要なのです。実は樽以上に、梁や土壁、土間の中のボロいところに百種類という酵母菌や乳酸菌たちが暮らしているのです。つまり蔵は昔からずっとここで暮らしている菌たちの家。生きている蔵なのです。ですので蔵を大きくしたくても建て替えがききません。蔵を新築しても菌たちがいなければお醤油をつくることはできないのです。よって少しずつ少しずつ手を加えながら大きくするしかありません。手がかかります。」

そんなヤマロク醤油のもろみ蔵は100年以上前(明治初期)の歴史があり、国の登録有形文化財(第37-0182~0184)に指定されています。

 

この生きている蔵の中でヤマロクの醤油はじっくり時間をかけて発酵と熟成が進みます。通常の醤油づくりでは4ケ月から6ケ月で出来上がる醤油がほとんどですが、ヤマロク醤油「鶴醤」は天然醸造、しかも再仕込みでの醤油づくり。

再仕込み醤油とは、大豆と小麦からつくった麹の中に、生醤油を加えて、発酵・熟成をさせるため、ヤマロク醤油では、ここで加える生醤油をつくる時点で既に二夏もの時間が経過しています。その二夏かけてつくられた生醤油を加えられた後にさらに熟成が続き、一夏、二夏、三夏と熟成させた諸味をブレンドして搾ることではじめて完成を迎えます。つまり、「鶴醤」に含まれる一番長いものは五回もの夏を越えて造られた醤油なのです。

 

大豆と小麦に醤油を加えただけでは、発酵と熟成は進みません。「醤油は人がつくるんじゃない。菌が造るんや。人は菌が醤油を造る手助けをちょっとするだけなんや!」が口癖だった先代の言葉どおり、発酵と熟成に大きくかかわるのが、ヤマロク醤油の「生きている蔵」に住み着く乳酸菌や酵母菌などの「菌」たち。「お金で買うことのできない大切な」菌たちがヤマロクの醤油を作り上げていきます。

 

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地獄のもろみまぜ

「ボクは職人じゃないですよ!蔵の菌たちが職人なんです!」と語る山本さんですが、先代の「手助けをちょっとするだけ」という言葉は大きな意味を含んでいます。

それぞれの桶をじっと見守り、発酵状態を確かめながら諸味をかき混ぜてあげる事で、発酵が満遍なく進みます。春から夏にかけて急激に発酵するもろみを混ぜる作業のことを、先代は『地獄のもろみまぜ』と呼んでいたそうで、全て手作業の重労働に加え、もろみの発酵熱で40℃を越える樽の上は、正に天然サウナ。

毎日汗だくになりながら樽の一つ一つを丁寧に混ぜていかなければなりません。山本さんも一夏を超えると5kg以上体重が落ちるのは当たり前で、稼業を継いだ年には2ケタ体重が落ちたとか!

 

だからといって、疲れたから一日サボると、次の日は半沢直樹もビックリの「3倍返し」が来るそうで、1時間で混ぜ終わるものが3時間。2時間かかるものなら6時間。つまり発酵が始まったら一日も休めず、休んだ分だけ地獄は倍増します。

一方、冬になれば寒霞渓から吹き下ろす通称『かんかけおろし』のおかげで、足元から冷えが這い上がってくるそうで、「夏暑く冬寒い天然蔵は、正に地獄の蔵です。」としみじみ仰っています。

 

熟成されたもろみは二週間かけて搾られます。自然の重みで1週間。圧を加えて1週間。そして、一夏、二夏、三夏と熟成期間の異なる諸味をブレンドして搾ることで完成を迎えます。

それは、常に同じ味を提供するためと、味重視の醤油造りをするため。天然醸造で造る醤油は自然の環境に出来が左右されるものです。その年毎に出来は変わります。さらには、樽によっても味は変わります。熟成期間の異なる醤油をブレンドすることで、常に同じ味を保ち、山本さんの自信作の醤油になるのです。

 

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木桶にこだわる

醤油・味噌・酢・味醂・酒の業界で、木桶による醸造が多く残っているのが醤油と味噌の業界ですが、醤油や味噌の生産量の1%未満というのが現状です。

ヤマロク醤油で現在使われている醸造用の木桶は、戦前に作られたものがほとんどで、今から50~100年後にはほぼ全ての木桶が使えなくなってしまうそうです。

 

木桶による「本物の日本食の基礎調味料文化」を未来へ残すため、山本さんの挑戦が始まりました。まずは、一桶で外車が買えるという醸造用の19石木桶を12本購入。これは本当に驚くべきことで、今の時代に醤油蔵がコストもかかり、耐久性もステンレスタンクに及ばない新桶を導入することは非常に珍しい事です。

「自分が今、使っている桶は何代も前の先祖が残してくれたもの。桶仕込みの醤油を残していくためにも、このタイミングで孫の世代に向けて新桶を迎え入れることが大切だと思ったんです。」

 

 

醤油職人=桶職人

山本さんはさらに挑戦を続けます。現在、醸造用の木桶を製造できる桶屋さんは、大阪の堺市にある「藤井製桶所」1社のみで、この藤井製桶所が廃業すると、木桶を作る職人がいなくなります。それはもう次の木桶は出来なくなり、今ある木桶が無くなったら、木桶文化が無くなることを意味します。

 

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そこで、山本さんは地元の大工さんを連れて、桶職人に自分の発注した桶を作らせてもらうという、前代未聞の修行の旅に出ます。桶作りを実際に体験することで、桶職人の技術を覚え、自分のものにしていくという、「まず行動」という実に山本さんらしいやり方で、見事に桶を作り上げました。新しい桶は、増築した蔵にヤマロク醤油の札と共に鎮座しています。

今度の桶は、小豆島で山本さん達だけで作り上げるそうで、既に『木桶職人復活プロジェクト』として、動き出しています。

 

 

 

 

 

 

終わりに

「木桶が使えなくなるということは、本物の木桶仕込みの醤油・味噌・酢・味醂・酒が消えて無くなるということ。これは日本食の基礎調味料の本物が無くなるという事なのです。

今ここにある木桶は、我々が生きている間は大丈夫ですが、子や孫の代に『本物の日本食の基礎調味料』を残せるかどうかは、木桶が残せるかどうかにかかっていて、それは桶屋さんが残るかどうか、桶屋の技術が後世に受け継がれるかどうか、にかかっているのです。

自分たちが墓場に入った後の問題ですが、タイムリミットはすぐそこに迫ってきているのです。出来るかどうか考えるより、まずは行動です。我々3人で新桶を組上げていきます。

ただ、私の代だけが木桶造りを頑張っても、やはり木桶文化は次世代に残りません。

幸い私には二人の息子がいます。一人は醤油屋に、もう一人は桶屋にするために、今から醤油文化、その土台となる木桶文化の大切さを教えています。

息子達が自分たちの息子に、そのまた息子にと引き継がれ、日本食文化の土台である、基礎調味料文化が永続的に継承されることが私の夢です。まあ、その頃には私はこの世にはいませんが。」と、笑顔を満面にたたえた山本さんの、木桶文化継承への努力はまだまだ続きます。

 

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