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本物の梅干しとは何か【濱田洋】

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  日本屈指の梅の恩恵を受ける土地ajibito_hamada301

紀州・田辺市は梅の名産地として知られており、至るところに梅畑があります。その田辺市のもっとも山奥にあるのが、石神の邑。

標高400mの『大蛇峰』を始めとする高い山々に囲まれたこの地は、紀伊半島にありながら寒暖の差が激しく、人が住むには厳しいところですが、水はけの良い地形と相まって、梅の栽培には理想の地でもあります。

平安時代の古くから、梅畑として開墾され、紀州でも屈指の高品質な梅の名産地として知られています。

この梅の名産地:石神で、梅作りに情熱を傾けているのが、生産者の濱田さんです。

 

濱田さんは、梅の産地なれども、わずか13軒しかない石神の邑の将来を憂い、パイロットファームの事業を始めたのは1995年のこと。「石神というこの地が、永遠に持続できるような、そういう邑づくりをしていかな。ここには梅しかない。梅で生活できなしゃあない。」

高齢化が進む石神の生産者の方が少しでも楽になればと、濱田さんは、傾斜の厳しい土地を切り拓き、土壌改良を行ない、約3000本の梅の木を植え、香壌栽培と名づけた栽培方法と有機栽培に取り組みました。

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ajibito_hamada300有機栽培

「農薬のおかげで農作業はもの凄う楽になったし、生産量も飛躍的に上がったんは事実や。消毒とかしとったら、虫もつかんし、効果も長続きする。せやけど、続きだしたら、一年目はいいが、二年目は手が赤うなってかぶれてくんのよ。結局ええことないんや。」そう語る濱田さんは有機栽培にも取り組んでいます。ただ、「日本のJAS有機の規格はあるが、あんなん北の北海道から南の沖縄まで、気候はその土地土地で違うんやから、一緒なんてありえへん。」そう考える濱田さんは、和歌山県認定の有機栽培に着手しています。

 

有機栽培とは健全な土地を次世代に残すということが主目的であり、最も大事なのは土作り。最初の収穫から3年以上さかのぼって農薬を使用せず、施肥等による手作り栽培を行なった圃場において生産された梅が有機認定されます。ひとえに有機といっても、農薬を一切使用せずに梅の木を守るのは並大抵のことではありません。梅の根元に生える雑草は機械が入れられないため、全て手で刈り取ります。また、アブラムシが付いても、木の免疫が付くのを待つしかなく、「(アブラムシで)チリチリになった葉っぱを見ているとホンマかわいそうに思うんやけど、頑張れとしか言えへん。それが辛うてなぁ」一本の梅の木を眺めながらそう浜田さんは切なそうにおっしゃいます。

 

圃場を歩いていると、あちこちに梅の種が落ちています。「種が一番ええんや。他の有機肥料より種というのが、ものすごいええもんやと僕は思うんや。」と濱田さん。考えてみれば、本来完熟した梅は、根元に落ちるわけですから、確かに理に適っています。あくまでも自然に近い形で。濱田さんの有機栽培への取り組みの一部がこんなところにも現れています。

 

種の多様性

「今の和歌山の梅といったら、南高梅が90%以上で、それこそほとんど南高梅ですわ。今、種の多様性ってよう言われてるでしょう。あんまり品種が単一になってくるっていうのは怖いですわ。一種類やったら、病気にかかったら全滅なんてこともあるだろうし。それに南高梅ていうのは、自家交配できないんで、ミツバチの力を借りなあかんのですが、その分、天気にものすごう左右されるんですわ。まあ、不安定な訳ですわ。」そう語る濱田さんは、種の多様性を重視し、試験園で様々な品種を原木栽培しています。

 

「母親はみな南高梅ですが、南高と違うて、ここの原木は自家交配できる品種ですわ。原木ですから世界にここしかありません。皆さんには全部一緒に見えるかもしれませんが、においや色が微妙に違うんですわ。」そういって、濱田さんは梅の木を一本ずつ指差しては品種を教えてくれます。「これは、小粒ながらに実がよう付きます。こっちは病気に強いんで有機には向いとるんです。結局、この地域に向いたもんが一番ええんのよ。そのためには種が一番大事なんですわ。お客さんは果肉が多いのがええ、皮が薄うのがええと実のことばかり言いますが、実は周りを覆っているものでしかないんです。」その地域に根付いた品種を育てるために濱田さんは努力を惜しみません。

 

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知る人ぞ知る幻の梅

主の多様性の一環として、またこの石神に生まれ育った者として、濱田さんは石神の地で古くから栽培されていた在来品種「皆平早生梅」を今も作り続けています。

実が大きく種が小さく、栽培しやすい「南高梅」は、梅干にも梅酒にも適しているため、ほとんどの農家が在来の皆平早生を捨て、この新品種の梅の木に代わっていきました。その結果、石神邑の「皆平早生」は絶滅寸前の危機に陥りますが、「田辺梅林の父」といわれる先代の濱田武次郎氏が、在来種存続に東奔西走され、「皆平早生」を守るために、大変ご尽力されたそうです。

 「干し梅としてはこれに勝るものはないと思います。皮が薄うて滑らかなんで、干し梅にすると美しい光沢がでます。猿がたまに実を獲りに来るが、南高梅よりも皆平早生を食うんよ。動物でも人間でもその土地のもんが一番美味しいと分かっとるんやなぁと思うわけですわ。」そう語る濱田さんは先代の意志を継ぎ、また自家交配の出来る皆平早生を、再び掘り起こそうと日々努力されています。

 

本物の梅干しとは何か

現在、梅干しと言えば、塩分を落とした「薄塩梅干」やコンブやハチミツで味を加えた「調味梅干」が主流ですが、そんな中で濱田さんは今も変わらず、昔のままの白干梅を販売されています。

 

「梅干しはやっぱり白干しがええなぁと思うんやけど、なかなか売れへんでね。今の調味梅言うたかて、甘さは砂糖の甘さでは無うて、甘味料の甘さやし。本当は素材そのままで、家庭で少し手を加えていただくほうがええんと思うんよ。家庭で塩抜きでもして、ワサビと和えたり、のりでも巻いてもろうたり。それくらいを家庭で調味して楽しんでほしい。かつお梅買うより、自分とこでカツオ振った方が日本食というか、素材そのもので食うほうがやっぱりええんよ。こう言うから商売が大きうならんやけどね。」笑って答える濱田さん

 

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また調味梅についての問題も指摘しています。

「調味梅を作るため、塩を減すということは何かを足さなあかんいうことよ。保たそう思ったら、アルコール使うたりとか、余分なことがもの凄うかかんね。

せやから、本来保存食であるはずの梅干しが冷蔵庫に入れな保たんとか、殺菌効果のあるはずの梅干しにカビが生えるとか。もう無茶苦茶ですわ。

この梅を食べた子供達が、本当の梅干しの味を知らんようになってしもうたら、そこで梅干し文化はお終いですわ。それが怖いんよ。」

 この昔ながらの「塩辛い梅干」の味を守り続けている濱田さんの梅干しを味わった多くの食通の方々が、「皮が全く口に残らない逸品」と高く評価されています。

今はクセのある食品を食べやすくするために、味を添加して加工することが主流となっていますが、昔ながらの伝統食品の味は自然の旨みの奥深さがあり、飽きの来ない味なのかも知れませんね。

 

 

終わりにajibito_hamada304

 「僕らは土着で、東京に出ることもほとんどない。ただ、僕らはこの石神の地を愛しとうし、梅造りに最高の地であるいうことは間違い無いですわ。梅造りしてる限りは、神々から授かったというんか、そんな場所を授かってるんで、あとは自分の努力や思うとるんよ。僕たちは、この地で梅造りをさしてもろうてることを感謝して、石神邑ブランドに恥ずかしうない商品をお客さんに届けることが一番大事やと思うてます。そして、いつか、お客さんにも畑来て作り方を体験してもらうような、そういうのが理想とするところやな。」

そう語る濱田さんの梅に対する情熱、そして日本の食文化である本物の梅干しの文化を次世代に継承するため、また石神の梅文化を守るため日夜努力されています。

 

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