大原漁港【いすみ市】
荒波が鍛えた、真紅のごちそう【いすみ大原編】

九十九里を後にして、その日は道中で一泊。
翌日早朝に宿を出て、車を南に走らすこと約1時間、次の目的地いすみ市・大原港に到着しました。
太東から勝浦にかけて続く外房の海岸線は、岩礁帯が広がる全国有数の漁場。その中でも大原港は、単一の港としてはイセエビの水揚げ量日本一を誇る、まさに「伊勢海老の本場」です。
伊勢海老といえば三重・伊勢のイメージが強いですが、実は漁獲量トップは千葉県。なかでもこの外房・大原港は、質・量ともに全国屈指の産地として知られています。

大原港に着くと、まだ空気の冷たい早朝。
ちょうど網上げを終えたばかりの漁師さんたちが、忙しそうに動いています。
「イセエビはね、時間との勝負なんですよ。」
そう話してくれたのは、地元で三代にわたり伊勢海老漁をおこなっている荘司さん。
外房の伊勢海老漁は、カーテン状の網を垂直に張り、通りかかった伊勢海老を網の目に刺したり、絡めたりして漁獲する『刺し網漁』
夜のうちに仕掛けた網を、夜明け前から一気に引き上げていきます。
「イセエビは夜行性の生き物で太陽が昇ると元気がなくなってくるからね。」
網から伊勢海老を取り外すのですが、これが大変な作業。
網にガッチリ絡まった伊勢海老はただでさえ外しづらい上に、ヒゲや角、足などが取れてしまうと商品価値が半減してしまいます。
また、慎重に取り外していると、今度は伊勢海老自体が弱ってしまうため、いかに素早く傷つけずに網から取り外すのが勝負なのだそう。
荘司さんが言っていた『時間勝負』の意味が分かりました。
水揚げの様子を見た後は、港近くに加工場に向かうと、地元の水産会社の秋山さんが出迎えてくれました。
加工場に入ると、立派な伊勢海老がサイズごとに生け簀に入っています。
「これが600g前後のサイズですね。」
そう言って手に取った一尾は、ずっしりと重く、殻は硬く、身が詰まっているのが一目でわかります。
「このあたりの海は、黒潮と親潮がぶつかり合う海域なので、プランクトンが大量に発生することで、イセエビのエサとなる生物も豊富になります。さらに、いすみ沖に広がる「器械根(きかいね)」と呼ばれる広大な岩礁帯があり、この複雑な地形と海流が、伊勢海老を大きく、そして力強く育てているんです。荒波にもまれているから身も締まっていて美味しいんです。」
とお話ししながら、生け簀から揚げたばかりの伊勢海老のお刺身をいただくことに。
透明感のある身は箸で持ち上げると、ぷりっとした弾力。
ひとたび口にすれば、強い甘みと、ねっとりとした濃厚な旨みが口いっぱいに広がります。さすが本場の伊勢海老です。
「次はこちらも食べてみてください。」
と言って出てきたのは、冷凍伊勢海老を解凍したお刺身。
『冷凍か…』と思いつつ、こちらもいただくと…
身の透明具合、プリっとした食感も残っていて、先ほどいただいた活の伊勢海老と遜色ない味わい。
『あれ?これ本当に冷凍したものですか?』と驚いているスタッフの様子を見て、秋山さんが
「伊勢海老は死後すぐに自己消化が始まり、身がスカスカになってしまう繊細な食材なので、活きたまま氷水で締めた後、そのまま急速冷凍をかけることで、解凍しても活と変わらない鮮度や食感を実現しています。調理も冷凍の方が簡単なので、ご家庭用にはこちらをおすすめしています。」
なるほど、用途に応じて活と冷凍品を案内しているのですね。
それにしても、冷凍品でも、普段食べている伊勢海老よりも食感も甘みも抜群でした。
この伊勢海老の美味しさは、単に高級だからではなく、荒波の海、豊富なエサ、素早い水揚げ、徹底した鮮度管理のそのすべてが揃っているからこそ。
本場の伊勢海老の美味しさにかける、大原の漁師と生産者のプライドを目で見、舌で感じたあじたびスタッフでした。

追記:
せっかくなので、大原駅へ立ち寄ってみることに。
駅前には「いすみ鉄道」の案内板が!
国鉄時代のディーゼル車両や黄色い車両で知られ、大原駅から房総の里山をゆっくりと走るいすみ鉄道は、どこか懐かしい雰囲気を残すローカル線。
春には菜の花、初夏には青々とした田んぼ、秋には黄金色の稲穂。季節ごとに表情を変える景色を楽しみに、全国から鉄道ファンが訪れていたそう。
しかし、2024年の脱線事故(乗客全員無事)以降、いすみ鉄道は全線で運休中。現在、2027年秋頃の再開を目指して工事が進められています。
復旧に向けて、全国の鉄道ファンや地元住民から寄付やSNSでの応援が寄せられているほか、地域住民が駅の美化活動やバラを植えて育てたりと、駅を「訪れる人の憩いの場」として守り続けています。
列車が走らない期間も、駅が地域交流の拠点としての役割を果たし続け、鉄路の復活を心待ちにする地元の方の姿を見て、地域の方々に長く愛されてきた鉄道なのだということを改めて実感しました。















