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献上桃の郷【桑折町】

今回の味の旅は、福島県桑折町(こおりまち)へ。

福島県北部に位置する桑折町は、明治時代から100年以上続く全国有数の桃の産地で、1994年からは32年連続で皇室に桃を献上する「献上桃の郷」として知られています。
町を流れる阿武隈川沿いには広大な桃畑が広がり、夏になると枝いっぱいに実った桃が収穫の時を迎えます。
今回はその桑折町で、10代続く桃農家・蓬田さんの畑を訪ねました。
案内していただいた桃畑へ向かうと、まず驚いたのは木の高さと樹形。
一般的な果樹園よりも低く仕立てられ、8本の主枝がまっすぐ伸び、放射状に大きく横へ広がっています。


「この樹形は低樹高開張型と言われる栽培法です。主枝を水平に近い角度まで大きく広げ、樹の高さを低く抑えるように仕立てます。このような樹形にすることで、桃の実ひとつひとつを観察しやすくなる上に、すべての桃にしっかり日が当たるようになります。日当たりの良さは、桃の実が大きくなり、糖度が乗るだけでなく、病害虫防除にもなります。」

 

主枝の一つを指しながら丁寧に説明をしてくれる蓬田さん。

「一般的な桃の枝は主枝が曲がりくねっているため、葉が混み合うと日当たりが悪くなり、色づきや甘さにも影響します。また、葉が実に当たり、実を傷つけてしまいます。その点、この樹形は主枝がまっすぐなため、葉が擦れる心配もありません。さらに、樹が低いことから、脚立を使わずに作業できるため、摘果や袋掛けなどの手間を大幅に減らせ、実の成長が均一になります。」

桃にも人にも優しい栽培方法ですが、難点が一つあるのだとか。

 

「この栽培方法は葉が落ちてからの冬場に樹形を調整する必要があります。このあたりは冬場は雪が降るので、雪の中かじかむ手で選定作業をおこなうこともしばしばです。しかしながら、桃にとってもメリットが大きいのと、何よりも従業員の方の負担がまったく違ってくるので、寒いから、辛いからと言ってられません。」

自分に厳しく、桃や人には優しい、そんな蓮田さんの人柄が垣間見えました。

足元の土はやわらかく、ふかふかと弾むような感触。

「桃に限らず、農作業の基本は土づくりです。うちの畑では100%有機肥料を使用し、毎年冬には有機質の改良材と堆肥を施します。さらに土壌の状態を細かく確認しながら、その年に合わせて管理をしています。木が元気じゃないと、美味しい桃はできません。」

蓮田さんは当たり前のように言いますが、その「当たり前」を実直に何十年も積み重ねてきたからこそ、この畑があるのだと感じました。

 

畑を歩いていると、まるで紅を差したような美しい桃が目に入ります。

「これは『あかつき』ですね。福島を代表する品種であり、皇室献上に選ばれることの多い桃です。まだ時季が早いですが食べてみますか?」

そういって、枝からもいでもらった桃をいただくと、7月中旬にもかかわらず甘みもしっかりあり果汁もたっぷり。


歯を入れると、果肉から甘い果汁がじゅわっとあふれ、口いっぱいに桃の香りが広がります。まさに「献上桃の郷」の名にふさわしい桃で、旬を迎える7月下旬にはどこまで甘く熟していくのだろうと楽しみが膨らみます。

「糖度は15度以上を目標にしています。」

そう話す蓬田さんですが、印象的だったのは、ご家庭でお好みの食べ頃を楽しめるよう計算された、収穫のタイミングでした。

 

「うちはあえて少し硬めで収穫して出荷しています。桃は特にお客様によって硬さに好みがあり、届いたその日に硬めを楽しむ人もいれば、4~5日置いてとろけるような食感を楽しむ人もいます。お手元に届いてから、数日かけて追熟する間に、お客様ご自身で食べ頃を見極めていただく。そこも桃の醍醐味だと思います。今食べていただいたあかつきも、柔らかくなると、また違った味わいになりますよ。」

そう言われると、家に持ち帰って毎日少しずつ味の変化を楽しみたくなります。
まるで食べ頃まで含めて、桃づくりが続いているようなお話でした。

時間までも美味しさに変えてしまう。
それもまた、桃という果物の魅力なのかもしれません。

自然と向き合い、土と向き合い、一本一本の木と対話しながら育てられた桑折町の桃。その一玉には、長い歴史と生産者の確かな技術、そして桃への深い愛情がぎゅっと詰まっていました。

 

追記:
蓬田さんの畑からほど近い「こおり桃源郷」へ立ち寄ってみることに。
春には約120ヘクタールもの桃畑が一面ピンク色に染まり、「桃源郷」の名にふさわしい絶景が広がるこの場所は、上皇・上皇后陛下、天皇・皇后陛下も訪れたこともあり、記念碑が建てられています。

訪れたのは夏だったため花は終わっていましたが、その代わり枝には収穫を待つ桃がたわわに実り、春とはまた違った風景が広がっていました。
春に花を咲かせ、多くの人を楽しませた木々が、今度は実りとなって私たちのもとへ届く。
そんな一年のつながりを想像しながら、桃畑の間をゆっくり歩いていると、生産者の方が「春もぜひ見に来てください。本当にきれいですよ。」と声をかけてくださいました。
花の季節も、実りの季節も、それぞれに魅力がある桑折町。
その風景や生産者の想いを知ることで、一玉の桃がさらに特別な一玉に感じられる気がしました。