価格帯で選ぶ












地元漁師との信頼関係を第一に【橋本一彦】

淡路島の東南・紀淡海峡を目前に臨む由良港。由良近海で獲れるアワビや真鯛、ハモなどの海産物は大変良質なため、奈良・平安時代には御食国(みけつくに)として天然の良港として栄えてきました。
由良港は古くから良質な魚介類が水揚げされる事で全国に知られていますが、とりわけ夏場に獲れる赤ウニや鱧は、京阪神はもとより築地でも圧倒的なブランド力を誇ります。


そんな由良漁港の仲買人の中で抜群の目利きを誇り、その品質の高さから船場の高級料亭から絶大な信頼を得て20年以上魚を卸しているのが海幸丸水産の橋本一彦さんです。

 

<美食家の父に作ってもらった舌と目>
「親父(海幸丸水産先代社長)が食道楽で『この浜で一番うまいもんが揚がったらとにかく買うて食え。』それをずっと言われて実践してきました。子供の頃から赤うにを丼いっぱいに盛って『うに丼食え』って言われて、何も分からず食べてましたからね。『うまいもんは食うとかな分からんのじゃ。』とよう言うてました。今考えれば、生意気ながら小さいころから常にええもんに触れていたから、自然と良いもの悪いものを判断できるようになったんだと思います。親父に自分の舌と目を作ってもらいましたね。」
品質の高い魚を見極める能力。その背景には幼少時代から良いものに触れてきた経験が生きています。

<由良の魚介がうまい理由>
「同じ淡路島の中でもなんで由良の魚介がうまいんか、以前大阪の大学の先生がここへ調べに来はったことがあるんです。それで調査したら、海洋深層水が高知の方から由良まで流れて来ていて、しかも海底の水の流れには淀みがほとんどないんですね。その海洋深層水と海水のバランスが良く、いつも新鮮な海水が供給されますから魚のエサも豊富になり、なにしろええ海藻が育つ環境なんだそうです。もずくにしてもわかめにしても良いのが出来てて、それを魚やウニが食べてるからうまくなるんだそうです。」
由良の魚や海藻の美味しさは特別な海(生育環境)にある。そう言われてみると伺った当日にいただいたわかめが抜群に美味しかった印象があります。

 

<2人/200人>
「由良にはウニ漁師が200人くらいいるんですど、由良のウニ漁師と言ってもね、徳島の方とか遠方に獲りに行ったりするんですよ。せやから本当に地元で獲る漁師なんかは限られてるんです。もうほんまにこの辺で潜っている人いうたら20人もおらへんかなぁ。もうその程度ですよ。
そん中でも一番腕のええ漁師親子がいて、由良の漁師は素潜りで10mくらい潜るんやけど、その親子は20m潜るんです。もう20mっていうたら誰も潜れないんで、そこには大きくなったええウニがあるんですよ。そやからね、もうその漁師親子と親密な関係にしとらんかったら、本当のええウニは手に入らないんです。
実際その漁師親子のウニだけが飛び抜けなんです。しかも1週間に3枚とか5枚とかしか獲れない。せやから5年がかりで何とか入れてもらえるよう口説いたんです。」
本当にいいウニを仕入れたい!そのために足かけ5年で漁師を説得した橋本さんの根気と執念に頭が下がる思いです。

<献上赤うに>
「赤うにでも並みのものなら5000円とか6000円のもあるんですよ。けど並みのものを扱っても面白うないかなぁと思ってます。もうあそこだけしか作っていないとか、あの人なら特別なものが入るとか、そっちの方が面白いじゃないですか。

飛び抜けの赤ウニも入りますよ。でも食べたかったら2万円はします。さらにはそれが東京へ行くと5万円くらいで出されるそうやから、まさに“幻”ですわ。しかし、みなさん食べたら誰でも納得されますわね。
せやから高くても良いからほんまにええウニを食べたいという方にはこの赤ウニをお出ししてるんです。あんまり美味しいので、お客さんには「献上赤ウニ」なんて呼ばれていますけど。自分はとにかくええもんを仕入れてお客さんに喜んでもらえるのが好きなんですよ。」

 

<獲るプロと剥くプロ>
「仕入れた赤ウニも剥き方によって日持ちが変わってきます。由良ではウニが溶けることを『ウニが鳴く』言うんです。品物と殻むきの腕のいい人がやったときは、1週間から10日は鳴かずにそのままの状態ですね。だからウニが獲れた時はウニ剥き名人のおばちゃんを雇って、漁師には殻の状態で持ってきてもらうんです。そのおばちゃんの腕は間違いなし。ウニむきのプロとウニ獲りのプロの両方がちゃんとかみ合わさんかったら、ほんまにええウニを出すのは無理ですわ。」せっかく獲れた貴重なウニの品質を少しでも落とさないように。
橋本さんの“微に入り細を穿つ仕事”が水揚げされたウニの品質に大きく影響しています。

<黒い!が旨い!>
「それとね、ウニの色によっても味に違いがあるんですよ。実は一番うまいのが少し黒ずんだ色なんです。黒いのは甘みが強くて味が深い、そして後味がすっきりしてるんですよ。生臭みとかそんなん一切ないし。本当にウニ好きな人は『黒いやつを回してくれ』って言ってきます。以前『日本一うまいウニを食べたい。』というお客さんがいて、献上ウニをお送りしたんですけど、ウニの蓋を開けたらすぐ電話かかってくるんですね。『(ウニが)黒いで~、黒いで~。高いのに何でこんなに黒いんや。』って(笑)。それでとにかくいっぺん食べていただくんですね。すると『あっま~!いやぁ、やっぱりすごいな!』と納得いただいたことがあります」

黒いウニというと、とかく「鮮度が悪い」と判断してしまいがちで、地元漁師でも知らない人がいるとのことですが、外見に囚われず、本当に美味しいものを見極める目を持つ橋本さんならではのエピソードです。

<本物を見極める情報力>
「うちは他より高う買うてるんで、漁師からの引き合いもたくさん来るんです。だから情報がものすごく大事になってきます。
漁師から『橋本さん、ウニあるんやけど買うてくれへんかなぁ』という電話はしょっちゅうかかってきます。
うちは由良で獲れたウニしか扱わないから、由良のどこの海を潜ったかを聞いて、知り合いの漁師に確認をするんです。
すると『いや見えへん。あの人、今日は四国の方行っとった』と言ったことも良くあります(笑) 由良で獲れたウニかどうかはっきりしないのに、お客さんに由良産のウニと言ってお出しすることはできへんやないですか。やっぱりそこまで責任持たなあかんと思ってしっかりやってます。

うちのお客さんは料理関係の人がものすご多いんですよ。その人の顔を潰さんようにするには、やっぱり本物を出さなきゃあかんのです。」

確かな情報を元に本物を仕入れてお客様に提供する。日頃から地元由良の漁師との関係を密に保ち、信頼を集めている橋本さんだから抜かりもないのです。

 

<はっしゃんの鱧じゃなきゃあかんねん>
「鱧は旬の時期になるとものすごいええもんありますよ。うちなんか扱ってるのは大きな鱧なんですよ。大体2~3kg。ええ鱧は頭が小さくて身体が太うて、そしたらお腹にたくさん卵が入ってるんですよ。この鱧の卵が鍋に入れてもおいしいんです。漁師がセリをしてる時に呼びに来るんですよ。

『橋本さん、ええ鱧が揚がっとんねん。札入れて』って。そんでほんまにええか見に行くんです。自分は大体鱧の顔見たら味が分かるんですよ。もう顔見て『ええ鱧やなぁ』と。それで最後の確かめにお腹を触ると、ふわーっとしていて『あ、これ大分目の細かい卵入っとるなぁ。』みたいな感触があるんです。卵のいっぱい入った鱧は数量が限られます。せやからうちの鱧は高いですけど、本当にこだわっている方だけ買ってくれたらええんです。」

橋本さんの鱧の目利きには関西圏の食通の方も絶大な信頼を置いていて「どないしても鱧ははっしゃん(橋本さん)ところじゃなきゃあかんねん」というお客様も多いのだとか。

 

おわりに
「私はとにかくお客さんに喜んでもらいたいんです。そのためには本当にええもんをお客様に出さないかんと思うてます。とにかく自分はうるさすぎるんで、浜では変人扱いされてますけど(笑)やっぱり自分が食べたいと思うものでなかったら、お客さんに出されへんやないですか。
あとはええもんであれば漁師から高く買うようにしてます。商売は関わっている人すべてが儲からないとあかんと思います。全員が儲かって、それでお客さんが納得して喜んでもらえればもう全員が幸せになれる。そのためには品質のええもんを少々高値でも買って、品質のええもんを食べたいお客さんに納得して買っていただく。それが商売が長続きする秘訣やと思っています。

もうずっとそうですが、品質の良いものはそれなりに高値で買うてますから、漁師さんたちも「ええもんは橋本さんへ」という流れができ、それがお客様からの信頼につながっていると思っています。

「みんなが喜ぶような商売をしていきたい」
そんな思いを笑顔で答える橋本さんは、地元由良の浜や淡路島に再び活気が戻ってくるよう、自身の目利きに常に満足せず、地元漁師とのコミュニケーションを第一に日々研鑽を積んでいます。

 

橋本さんのウニ商品

橋本さんの鱧商品