本場にあった本物の味【北海道:松前町】
全国味の旅は再び北海道。道南を回ります。
北海道新幹線で都心から4時間。終点:函館北斗のひとつ前の駅「木古内(きこない)」で下車。駅前でレンタカーを借りて走ること約一時間。最初の目的地:松前町に到着。
松前町は江戸時代、蝦夷地(北海道)の玄関口として北前船交易で大いに栄えた町です。
名産と言えば、なんといっても「松前漬け」。そんな松前漬けの本場:松前で、今も昔ながらの古式松前漬けを作られている龍野屋店主:龍野さんを訪問しました。
「こんな遠いところまで良くいらっしゃいました。道中お疲れでしたでしょう。まずはお茶でもどうぞ。」と振る舞われたお茶が、八重桜の花が浮いた「さくら茶」。ほんのりと漂う桜の香りと梅の味わいが長旅の疲れを癒してくれます。
「松前は桜の名所で、松前城周辺には約250種1万本もの桜の木があります。樹齢300年以上の桜もあり、早咲きから遅咲きまで4月下旬から約1か月くらい桜が咲いているんです。桜の時期になると観光客の方も大勢いらっしゃいます。」
さくら茶を一服しながら店内を見回すと、江戸時代の松前城下を表した絵が堂々と飾られています。良く見ると町名が錦町とか芝居町といった京都の町名が多く見受けられます。
「ここ松前は江戸時代は北海道の中心で北の小京都と言われていました。近江商人が多く住んでいたので京都の町名が多いんです。城下町ですが、北前船交易によって多くの富を得た近江商人や松前商人が活躍した町で、江戸時代には商家建物や武家屋敷が建ち並んでいました。もっとも幕末の動乱によって建物の多くは焼失してしまい、今は松前城周辺の寺院が集まる寺町に、当時の面影を残すだけになりましたが…」
そんな龍野さんのお話を聞いていると、従業員の方が奥から松前漬けを持ってきてくれました。
「これがうちの特製松前漬けです。まずは一口食べてみてください。」
そう差し出された特製松前漬けですが、特製という割には数の子もホタテもアワビも入っておらず、特製感があまりないような気が。
とにかく促されるまま一口いただくと…
全身に衝撃が走りました!
まるでジャイアント馬場に脳天チョップを食らったようなインパクト!
最初に来るのは塩辛いと感じるくらいの塩味。普段食べている松前漬けよりも「ちょっとしょっぱいかな?」と思って食べていると、このしょっぱさが口に広がると旨みに変化します。発酵しているためか、スルメと昆布も柔らかく味がこなれていて、噛みしめるごとに旨みが溢れだし、旨みの余韻がいつまでも続きます。
ずっと噛みしめていたい、そんな衝動に駆られます。
こんな松前漬け、初めて会いました。今まで食べていた松前漬けはなんだったのだろうかと。
松前漬けは漬物であって和え物ではない。まさに「特製」の名に偽りなしです。
「特別なことは何もしていません。ただ納得のいく素材を使って、素材の味を引き出した本来の松前漬けを作っているだけで、特製と書くのもおかしいですが。」と龍野さんは謙遜されていましたが、素材のうまみをここまで引き出す技術は一朝一夕でできる事ではありません。
龍野さんの松前漬けにかける思いや素材に対するこだわりすべてが、この松前漬けの味に現れているのだと実感しました。
この特製松前漬けをちょいとつまんで良く噛みしめ、スルメと昆布の旨みを行き渡らせた口中に辛口の冷酒を注ぎ込んだらさぞ旨かろうと想像しながら、お土産に特製松前漬けをたんまりと買い込み、北の小京都に別れを告げました。
追記:
木古内から松前に向かう道中に北海道最南端の「白神岬」があったので立ち寄り。竜飛岬までは19.2kmという至近にあります。北海道最南端の岬と言っても、駐車スペースと記念碑しかなくちょっと寂しいですが、目の前に広がる眺望は最高!
この日は快晴だったため、竜飛岬はもちろん岩木山まで顔をのぞかせていました。強風の中、北海道最南端の記念碑を前に「津軽海峡冬景色」のリフレインが止まらないあじたびスタッフでした。